統合計測ソフトウェアプラットフォーム IS8000
1.背景(Introduction)
家電・エアコン製品、自動車開発などモノづくりの現場では、商品企画、設計、製造、出荷検査などのフェーズがあり商品化するまでに様々な試験が行われている。このような検査の中で開発された製品の信頼性を確認する1つの試験として長時間にわたる連続稼働試験を行うことがある。設計時に設定した品質目標値を得られているかどうかを確認し、測定結果に品質的な問題が見つかれば設計を見直すなどの改善作業が行われる。環境条件を設定し長時間稼働させたときの波形や電力データを詳しく解析しながら機器に何かしらの異常がないか確認しておくことも重要であり、慎重な検証作業が必要である。
2.課題(Challenges)
電力計で演算された測定値のデータ量は一般的な通信の転送レートに比べて圧倒的に少ないため、データ収集ソフトウェアを使って通信経由でPC本体に連続保存する方法を使うことが多い。しかし、波形データは波形測定器に搭載された通信インタフェースのデータ転送レートの制限により、短時間だけの高速サンプリング波形を取得する方法、あるいは、波形サンプリングデータではなく波形イメージを画像ファイルとしてオフラインでPCに転送する方法で対応する。このようなケースではレポート作成作業をより便利に進めるため、電力計データと波形データのファイル名を関連付けて設定することをするが、ファイル名に正しい日時や条件などを付けることに気を付けながら注意深く名前を付ける作業を進めていく必要がある。その一方で、波形データを抜けなく連続で測定したい場合は波形測定器に内蔵されたHDDなどに直接データを保存しておき、データ取得完了後、データをPCに転送する作業を行う方法もある。測定後、電力データと波形データの相関を確認しながらデータ確認を行う。
データ取得完了後データをPCに転送する方法、あるいは波形イメージを画像ファイルとしてオフラインでPCに転送する方法のいずれの方法においても波形データと電力計データはそれぞれの機器からデータ収集を行う必要がある。長時間測定では連続測定を行いながら、波形あるいは電力値に問題がないかどうか注意深く見ていく必要がある。理想的には連続的に波形形状を確認しながら電力計データも一緒に確認したい。ところが、キャリア周波数が含まれているインバータのような高速スイッチング信号を正しくとらえるためには、1MS/s以上の高速なサンプルレートが必要となるため、高速サンプリングした大量データはPCへのデータ転送が通信速度の制限により間に合わないことがある。しかし、サンプルレートを落とせば正しい波形を捉えられない、という問題が発生してしまう。
さらに、測定中に何か異常なデータがないかどうか波形を確認し、電力値と照らし合わせながら問題があるかどうかの確認作業ができれば効率が良いが、連続測定中はファイルにデータ書き込み状態であり、ファイルを開けずデータ解析ができない。長時間のデータ観測後に後解析をする手段もあるが、作業効率が良くない。データの高速転送とデータ解析の同時性は課題となっている。
3.IS8000による課題解決(Solution)
4. IS8000による提案(Detailed description)
4.1 リンクファイル/分割ファイルによるデータ管理
IS8000は、測定したデータを1つのリンクファイルとして管理できる。従来のように別々に測定した波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダを作成し、その中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業は不要となる。IS8000を使って同時に測定することで、波形データも電力データも1つの統合ファイルとして管理できる。
また、便利なファイル分割機能もある。ファイルを分割する時間やサイズを設定することで、分割ファイルを作りながら全時間のデータファイルを一元管理できる。測定の途中で解析をしたい場合は、分割ボタンを押すことでファイルを分割させて解析することもできる。たとえば、24時間の測定を行っているときに1時間ごとのファイル分割時間を設定することで測定しながら測定終了した時間分のデータを解析できる。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、1つのリンクファイルとして管理することができる。
図1 波形と電力データファイルのオフライン統合表示例
図2 3分割したファイルのリンクファイル(左上)と表示例
4.2 DL950 10Gbit高速転送による作業効率向上
スコープコーダDL950は10Gイーサネットインタフェースオプション(/C60)により10Gbpsの高速データ転送*を実現した。従来機種DL850Eでは100kS/s(16ch)でのPCストリーミングであったが、DL950は100倍の20MS/s(8ch)の高速データ転送*が可能になり、PCソフトウェア上にリアルタイムに測定データを表示できる。特にインバータ測定においてはスイッチング周波数が高速な信号であるため早いサンプルレートでデータ取得する必要がある。最速20MS/sのPC連続データ転送の性能は、試験を中断することなくデータ出力ができる。データ転送のためだけに何分間も待つ必要はない。さらに、高精度電力計WT5000と組み合わせることで高速波形データと電力データを同期させて電力のトレーサビリティの取れた高精度電力計測を実現できる業界初の性能・機能を実現できる。
*HiSLIP通信 :High-Speed LAN Instrument Protocol
1000BASE-T(1Gbps)に比べて理論上10倍高速なデータ転送が可能。
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要。オプションがない場合、200kS/s(16ch)
*USB3.0通信での転送レートは64MB/s
図3 DL850EとDL950のデータ転送比較
図4 DL950とPCとの接続図
図5 DL950 10MS/sデータの解析画面例
4.3 連続波形保存中のファイル分割とプロジェクトファイル
一般的に波形データ記録中は連続してファイル書き込みを行っているが、長時間の試験を継続したまま測定が終わった波形を画面に表示させたいことがある。データの信頼性やデータ解析を並行して進めたいことがあるが、試験終了まで待たなければならないこともあり業務効率が悪い。
統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000はこのような不便さを解消している。通常、1つのファイルとして測定データを格納するが、IS8000は測定を継続しながらデータファイルを分割して保存できる。そのため、測定中でも分割されたファイルをオフライン解析として確認ができ、測定後は1つのリンクファイルとしてデータを扱える。リンクファイルの優れている点は、ファイルを分割する時間を設定、あるいは手動で分割することができるので測定の途中で解析したい場合はその時点でファイルを分割できる。測定終了後は分割ファイルのみでは扱いにくいため、全ファイルを1つの統合ファイルとして管理できる。DL950を2台使った場合やDL950とWT5000を組み合わせた測定においても同様に1つのファイルとして管理できるため大変便利である。
また、便利なプロジェクトファイル機能も搭載している。一般的に波形測定器と電力計のデータ収集を行う場合はそれぞれのファイル形式で測定データを保有する。そのため、別々に保存したデータを表示したい場合、時刻や時間軸情報を合わせて表示することは簡単ではない。IS8000統合計測ソフトウェアプラットフォームは個々のファイルを持ちながら1つのプロジェクトファイルとして管理できる。したがって、波形データファイルと電力データファイルを関連づけるために同じ名前をつけて保存する、あるいは測定データごとにフォルダを作成しその中に波形ファイルと電力データファイルを入れて管理するなどの作業が不要となる。
図6 リンクファイルと分割ファイルの統合イメージ
4.4 IEEE1588規格*のWT/DL時刻同期表示
波形測定器の波形演算機能を使って電力値を表示させる方法により電力値の検証を行うケースがあるが、測定波形とトレーサビリティのとれた高精度な電力値としての結果を得ることはできない。IS8000統合計測ソフトウェアプラットフォームは、IEEE1588時刻同期を使いDL950とWT5000を同時に接続*することで同期測定が簡単に可能になる。DL950とWT5000の同期誤差は約10μs*である。
DL950で取得できる最速20MS/s、8ch同時の連続波形データとともにWT5000の電力データをPCの同一時間軸上に表示できる。そのため、電力計データは波形データとともに時系列のトレンド表示ができるので微妙な電力変動を確認できる。
たとえば実際に起こっている電力変動から異常波形データを確認し問題を発見することも可能になる。
* IEEE1588規格:ネットワーク上でつながる機器間の時刻同期に使用される高精度
時間プロトコル(PTP)。PTP=Precision Time Protocol
* DL950 IEEE1588マスター機能(時刻同期)(/C40オプション)が必要
* DL950 2台のIEEE1588同期の誤差は±150ns
* DL950 10Gbpsイーサネット(/C60オプション)が必要
* 2台の同期計測はIS8000 複数台同期オプション(/SY1)が必要
4.5 オンラインモニターによるデータ確認と操作
オンラインモニター操作は、通信インタフェース経由で計測器をPCからリモートコントロールできる。
スコープコーダDL950あるいは電力計WT5000本体のタッチパネルスクリーン(コントロール画面)がPC画面に表示される。計測器本体の操作と同じように離れた場所にあるPC上で設定を自由に変更でき、測定波形や電力計データも確認できる。したがって、製品本体と異なるソフトウェアの操作を新たに覚える必要はない*。
2台接続したときも同時に2画面、PC上に表示できる。設定に問題がないようであれば、その後、波形データあるいは電力計データを収集できる。
コントロール室から離れた場所にあるDL950の波形をPC上で確認できるので、実験室とコントロール室を往復しながら波形データの保存や設定条件を変更するなどの手間を減らすことができ、効率的なデータ収集が可能になる。
*本体のタッチパネル操作と一部機能のみ。ハードキー操作は除く
図7 DL950のリモートコントロール画面
図8 WT5000のリモートコントロール画面
4.6 MDFファイル出力に対応
IS8000は、自動車業界の測定データファイル形式として一般的なMDFフォーマットへの書き出しに対応している。IS8000上の電力・波形データや画像データをMDF形式にて出力することで、お客様の開発システムや他社のソフトウェアとデータを共有することができる。
図9 MDFファイルへのファイル出力画面
DL950は、DL850E/EVの機能・仕様を大幅に改善し、タッチパネルによる直観的操作を可能した新時代のスコープコーダです。
200MS/s高速サンプルレート、最大8Gポイントメモリー、複数台同期で最大160CHが可能で、お客様の様々なニーズにお応えします。
持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。