近年、⾼効率なスイッチング電源を搭載した機器の⼤幅な普及により、電⼒系統に流れる電流波形にひずみが⽣じ、そのことにより系統システムが不安定になるなどの障害が発生することがことがあります。その障害防⽌を図るために、電気電⼦機器に対して厳しい⾼調波電流の規制が課せられています。また、カーボンニュートラル実現に向けた各国各企業の取り組み推進により、分散型の再生可能エネルギーによる電力発電量が増えたため、その電力品質管理の観点から高調波電流の抑制が求められています。
高調波電流については、国際的なIEC規格が存在しており、各国や分野ごとにも異なる規制が設けられています。そのため、測定器に関してはこれらの要求事項に柔軟に対応できることが求められています。特に再生可能エネルギーによる電力供給の比率が高まることで、低電圧の分散型発電システムの系統連系のおいても高調波成分の抑制が重要となり、50/60Hzの各次数の間の中間高調波についても詳細な規制が適用され始めています。
高調波抑制規格では、これまでのIEC61000-3-2による2kHz/2.4kHzまでの低周波帯域での規制に加えて、ノイズの領域とされている9kHz以上の周波数との間となる、2kHz~9kHz間の電流についても高調波抑制が検討されています。このため、関連するメーカーや機関においては、この帯域での周波数成分の測定および解析のニーズが高まってきており、その背景となる代表的な高調波解析に関しては以下のような測定項目があります。
項目 | グルーピング方法 | WT5000 設定 | 規格例 |
---|---|---|---|
50 次までの 高調波サブグループ |
高調波グループ | Type1 | VDE-ARN4105 など |
2 kHz~9 kHzの 高調波グループ |
高調波グループ | Type2 | |
2 kHzまでの 中間高調波中心 サブグループ |
中間高調波中心 サブグループ |
Type3 | |
50 次までの 中間高調波グループ |
中間高調波 グループ |
Type4 | IEEE-1547-2018など |
表1 低電圧分散型発電システムなどの規格における高調波電流規制とWT5000による設定
高調波とは、商用周波数50/60Hzの正弦波を基本波として、その整数倍の周波数をもつ正弦波で、基本波以外の次数の成分を意味します。たとえば基本波(1次成分)が50 Hzの場合、3次成分は150 Hz、5次成分は250 Hz・・・となります。それら各成分が重ね合わさり一般的なひずみ波となります(図1 参照)。
高調波電流規制の国際規格は、電流が相当たり16A以下の機器では、機器によってA/B/C/Dのクラスに分けて、最高40次までの高調波電流の限度値が規定されています。
図1 高調波の原理(重ね合わせの理)
この際、各次数間の中間高調波の抑制も求められています。中間高調波は、入力周波数が50 Hzの場合、10周期分の入力信号をフーリエ変換して5 Hz刻みの周波数成分に分解され、10段階の周波数成分になります。このとき、各次数の高調波の間の成分を中間高調波と呼びます(図2参照)。なお、入力信号が60 Hzの場合は、12周期分の入力信号について、5 Hz刻みの周波数成分に分解します。このため、各高調波の次数の間は12段階の周波数成分となります。
図2 中間高調波(50 Hzの場合)
高調波規制の規格においては、高調波成分はグルーピングされて評価されます。ある高調波とその高調波に隣接する中間高調波の総合値を総合する演算方法としては、その成分が実効値のため、それらの単純加算ではなく、各成分を自乗して加算したあと平方根を求めます(自乗和平均)。ここで、2つの次数間高調波のちょうど中間になる中間高調波は、その成分の大きさの1/2を算入します。
図3 高調波グループ(50 Hzの場合)
さらに、ある高調波とその高調波に直接隣接する2つの中間高調波の総合値(実効値)を高調波サブグループと呼び、高調波グループの場合と同様に自乗和平均で算出されます。
図4 高調波サブグループ(50 Hzの場合)
一方、小規模の太陽光発電や風力発電などの分散型電力発電に対して、その基準を定めた各国の規格においては、40次ではなく50次までの高調波の規制が定められています。そのため、WTシリーズでは50次以上の高調波測定ができるように設計されています。
従来の50 Hz~2.5 kHzまでの高調波測定に加え、WT5000では2 kHz~9 kHzの高調波測定にも対応できるようにするため、50 Hz~10 kHzまでの高調波測定ができるように設計されています。そのために、測定できる次数を従来の50次(50 Hz × 50 次=2.5 kHz)までから200次(50 Hz × 200次=10 kHz)までとし、そのことに伴い高調波測定用のサンプリング周波数を上げ、1ウィンドウ(基本波10 波)あたりのサンプル数を32768点とすることで実現しています。
2 kHzから9 kHzの高調波についてはそのグルーピングに関して他の場合とは一部異なるため、図5にて紹介します。グルーピングOFFと高調波サブグループは他の場合と同じですが、高調波グループが少し異なります。図5の例では2100 Hzのグルーピングで表しており、2000 Hzの成分を除き、それ以降の中間高調波を含み2200 Hzの成分を含めて2100 Hzの成分として算出します。
図5 2 kHz~9 kHzのグルーピング(2100 Hzの例)
各国あるいは各分野での高調波規制に関しては、中間高調波についても個別に厳しく制定しているケースがあります。特に、先に紹介した高調波サブグループ(高調波次数の隣接する中間高調波を含むグループ)を除く中間高調波成分のみについての規制もありますので、その成分でのグルーピングが必要となります。そのグルーピングを中間高調波中心サブグループと呼びます。図6に示しますように、高調波周波数に直接隣接する周波数成分を除き、2つの連続する高調波周波数の間のすべての中間高調波成分の総合値(実効値)を参入します。
図6 中間高調波中心サブグループ(50 Hzの場合)
上記とは別に、中間高調波中心グループも50次まで算出可能となります。
図7 中間高調波グループ(50 Hzの場合)
WT5000の本体上での高調波の各Typeは、図8に示したIEC Harmonicメニュー画面から設定可能となります。
図8 WT5000 本体での高調波測定のType 設定
WT5000は、PCアプリケーションソフトウェアとなる統合計測ソフトウェアプラットフォームIS8000と一緒に利用することで50 次までの高調波/中間高調波、あるいは2 kHz~9 kHzの高調波/中間高調波の測定結果をPC画面上に表示させ、データ保存することが可能となります。
IS8000 上では、図8に示すようにDAQ(IEC 2 k- 9 kHz)のメニューから入ります。
図9 IS8000のメニュー画面
IS8000では、基本的に数値を波形としてグラフで表示するようになっています。また新たに対応した高調波/中間高調波のメニューは、2 kHz~9 kHzの高調波測定メニューから入ります。
そのため、電圧、電流の高調波の項目はデフォルトにて周波数2100 Hzからの測定となっていますので、新たに測定しようとする次数の高調波のパラメータを追加する、ないしは高調波の周波数2100 Hzの項目から変更します(図10 参照)。
図10 波形(グラフ)データの設定例
さらに、数値表示の項目に関しても、波形(グラフ)データと同様に高調波の周波数2100 Hzからの項目から、測定しようとする次数の高調波の項目への変更をします(図11 参照)。
図11 数値項目の設定例
新たに対応したType3およびType4の高調波/中間高調波の測定結果と、2 kHz~9 kHzの高調波/中間高調波の測定の例(Type2)を図12から図14に示します。
図12 2 kHzまでの中間高調波サブグループ(Type3)
図13 2 kHzまでの中間高調波グループ(Type4)
図14 2 kHz~9 kHz 高調波測定(Type2)
持続可能な社会の実現に向けて、COP21におけるパリ協定の採択、既存エンジン車の販売停止計画発表など、グローバルで太陽光/風力発電に代表される再生可能エネルギーへのシフトと、EVやPHVおよびそのインフラ網の開発が加速しています。それらの更なる省電力化と高効率化を支援するために、従来機種の性能と機能を格段に向上させた高精度電力計です。